ポール・サイモン『グレイスランド』に関するメモ
そのCRTで、萩原健太氏が『グレイスランド』に対する政治的批判について言及していたけど、これについてのメモ。
反『グレイスランド』陣営の主張はこうだ。ポール・サイモンは文化的ボイコットを骨抜きにしている。ヨハネスブルグでレコーディングしたことは、ボタ政権のアパルトヘイト政策を支持したことになる。またポール・サイモンは、過去にアパルトヘイトにはっきり反対の立場を表明したこともなく、さらに南アからミュージシャンを連れてきて、レコーディングしたのはボイコットを冒涜する行為だ。(パトリック・ハンフリーズ著『ポール・サイモン』より引用)
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天才的詩人
健太さんが言っていたのもだいたいこんなこと。
だけど。
しかしながら国連の反アパルトヘイト特別委員会は、このアルバムが純粋に黒人ミュージシャンの才能を示すものであり、南アフリカ共和国政府をなんら利するものではないとし、サイモンへの批判を支持していない。
実のところは、サイモンはまず文化的ボイコットに違反などしていないのだ。彼がヨハネスブルグへ行った当時の国連の禁止事項は、ライブ演奏に限られていた。(中略)しかし、サイモンが南アフリカで録音してからきっかり二年後に、国連は文化的ボイコットの範囲を拡大することを決めた。それによると「演奏、レコーディング、映画製作への参加、文化的イヴェントへの参加、その他の文化的活動の組織や実現の支援や協力を含む、南アフリカでの文化的活動」も禁止された。(前述の『ポール・サイモン』より)
同著からもうひとつ引用。1960年に南アから亡命し、四半世紀の間アパルトヘイトと戦ってきたトランペッター、ヒュー・マセケラのコメント。
「南アで公演して何百万の金を手にして、ピックのひとつも残さない連中がいるのに、そこに出かけて何かを作ろうとした男が非難を浴びるとは。非難の矛先は、英国首相官邸やホワイト・ハウス、エリゼ宮、またこの状況を作り出した企業に、向けられるべきだ。なぜならのちの歴史には、ポール・サイモンのレコーディングがなかったら、南アの人々は自由になれなかったと書かれるにきまっているのだから」
反アパルトヘイト運動の議長トレヴァー・ハドルストン主教から最初のトランペットを授かったこの男のコメントは重い。彼はサイモンのツアーに参加し、さらに彼の前妻で『パタ・パタ』のヒットでも知られる歌手・ミリアム・マケバを招くことを提案した。
『グレイスランド』に収録された『アンダー・アフリカン・スカイ』という曲は、かつてアパルトヘイトの象徴的存在だったサン・シティで公演し「何百万の金を手にした」一人であるリンダ・ロンシュタットとレコーディングしたので、反対派の誤解を助長させてしまった。
しかしライブではこのミリアム・マケバとのデュエットで披露され、曲はその輝きを取り戻した。
サイモンの手によって世界にその存在を知らしめたコーラス・グループ、レディスミス・ブラック・マムバーゾは、テレビのドキュメント(よく覚えていないがTBSの報道特集だったか?)で、短いがとても美しい即興のアカペラを聞かせてくれた。
私たちは
1983年に
ポール・サイモンに
出会ったことを 忘れない
この美しい謝辞を聞いて、さらに先日NHKで放送された『明日に架ける橋』についてのドキュメント(緒川たまきがニューヨークから南アまで旅するという、個人的には夢のような番組)で、ソウェトの中でポール・サイモンとその曲がに尊敬されているかを知ると、たとえばこんな話は実に空しいものに感じられる。
ずいぶん昔、ブラックミュージックマニアである年少の友人に 「ポールサイモンなんて、総合商社みたいなもんじゃないですか」 という感じの異議申し立てを浴びたことがあります。
つまり、われらがポール・サイモンが、ジャマイカ、ペルー、南アフリカといったあたりで取材した音階やビートをネタ元に、インテリ向け都市音楽を生産している成り行きが、第三世界から原料作物を買い付けてそれを紅茶ブレンダーみたいな人たちに販売している総合商社と同じだと言うのです。 「っていうか、音のセシルローズですよ」
そう、より端的に言えば、土人にビー玉をバラまいて、象牙を輸入していた植民地商人と同じじゃないか、と。
第三世界の人たちを侮蔑しているのは、さてどっちなのだろうか。
さて、メモはこの程度でいいかな。
後は、楽しもうじゃないか。
・追記 褒めてばかりもなんなので蛇足で追加しておくと、一説によると『グレイスランド』で『オール・アラウンドあるいはフィンガープリントの伝説』を共作したロス・ロボスにはちゃんと印税払ってないらしいよ。いい曲なんだけどね。
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